2005年08月15日

1勝1敗 後編

前話の解雇の事件から1年後・・・・
中年男性が監督署の窓口にやって来た。

男性は「事業主とのトラブルで4ヶ月間分の給料をもらっていない。」と訴えた。

感情のもつれだけではなく、会社の経営も思わしくないらしい。
会社名を聞いたところ、男性は、

「A社です。」
と答えた。

『来た!』と思った。
今度の違反はずっと悪質かつ重大である。
『今度こそ何とかせなあかんな。』
と気合がはいる。
しかし、A社あてに出頭要求書を送付したが、全く連絡もなし。会社に電話をしても
「社長は留守です。」の返答ばかり。
痺れをきらせた男性(相談者)からは、
「まだ解決できないんですか?」
「このままじゃ生活が出来ません。」
との督促が来る。
その後も会社に足を運び、かつ毎日のように電話連絡を入れたが、会社の対応は相変わらず。
こちらも段々腹が立ってくる。最後には電話に出た社員に

「大変なことになりますよ。」
「この問題は、のらりくらりで済む話じゃないですからね。」


と告げた。
翌日、社長から電話が入る。相変わらずの口調で、
「あいつはロクに働いてない。」
「毎日電話しやがって。」
「嫌がらせのつもりか。」
「役所が介入するな。」
などと捲し立てた。
こちらも黙っていられない。

「あなた一体何考えてるんですか。」
「約束した日に約束した金額の給料を支払うのは最低の責務ですよ。」
「賃金は単なる債権じゃありません。その人と家族の生活を支える糧そのものです。」
「こちらも好きで毎日電話してる訳じゃない。」
「誠意のない対応を続けるようならば、必ず送検しますよ、必ず!」
「処罰されて、前科がついてもいいんですね。」

と半ば怒鳴り声になって応酬した。
そして・・・

電話が切れた。
『これは司法処分しかないな。』
『あの調子だと、素直に任意捜査に応ずるとも思えないし、ガサ(家宅捜索)までせなあかんかも。』
横で電話のやりとりを聞いていた部下のH君も
「これはもう司法処分しかありませんよ。」
「ガサならお手伝いします。」
と声をかけてきた。
「そやな、これはやったらなあかんな。」などと言っていると予想外のことが・・・
社長からまた電話がかかって来た。
「話だけは聞いてやる、あの男と一緒に明後日の朝9時に××県○○市にある○○支店の事務所に来い。」と言って電話を切る。

『??あれから10分くらいしか経っていないのに一体どういう心境の変化だろう。』
不思議に思いつつも、言われたとおり翌日の早朝、男性と一緒に電車に乗り込み、会社に向かう。
電車の中で、これまでのいきさつを男性に伝え、
「あまり期待できないと思います。」
「決裂したら、事件捜査に移ります。」
「あなたも、訴訟を考えておいてください。」
と説明した。
2時間後、指定された事務所へ到着。
事務所には忘れもしないあの社長と、30歳くらいの女性がいた。
はりつめた雰囲気の中、
「先日お電話したとおり・・・」
と切り出したが、社長はそれを制止する。
社長 「いくらだ?」

予想外の返答に戸惑っていた2人に、
社長「だから、不払いとなっている給料はいくらかと聞いているんだよ!」
私「本人の主張は、○○○万円ですが。」
こう答えると、社長は金庫を開け、現金を数え始めた。そして、札束を窓口のテーブルにドンと置いて、「数えてくれ」という。 
相談者が慌ててそれを数え、
「間違いありません。」「これで全額です。」と私に告げた。
狐につままれたような2人に、社長は
「これで文句はないな。サインしてくれ」
と言う。
男性は金を受け取り、言われるままに領収証にサインをし、押印した。
「さあこれで用は済んだはずだ、すぐ帰ってくれ。」
淡々と話す社長を不思議な眼でながめつつ、事務所を後にした。
帰りの電車の中、男性に
「よかったですね。」
「でも、どうしてあんなにアッサリと支払ったのかなあ」
と話した。
すると・・・・・・
男性 「あなたは最後の社長の言葉を聞いてなかったのですか?」
私「『帰ってくれ。』というのが最後の言葉でしょ?」
男性「違いますよ、その後にボソッと言った言葉ですよ。」
私「なんて言ってたんですか?」

男性「『生まれて来る子供の父親が前科者じゃ困るからな。』って・・」

私「あ!」

思い出した。
事務所にいた女性がマタニティーウエアを着ていたことを。

「あの女性が社長の妻だったのか・・」

「家族にだけは愛情を・・・・か。」


帰りの電車の中、男性とは言葉を交わすこともなく、そのまま別れた。
A社に関する苦情は、それ以降全くなくなった。そして、それから1年後、事業を閉鎖した。
まこやんは、
「世の中には、素晴らしい人もいれば、困った奴もいる。」
「善人と評価される人もいれば、悪評ばかりの奴もいる。」
「でも、人間は一つの物差しでは計れないなあ。」
と今も思うのである。

posted by まこやん at 19:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 事件簿 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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