2005年07月15日

1勝1敗 (前編)

田舎から、ある都会の監督署に転勤したばかりの時のお話。
赴任した当日から労使トラブルの相談があり、処理を求められた。
相談者は大学を出てA社に入社し、2年目を向えたばかりの若い女性。
相談の内容は、


「入社して1年後、事業主に年休を使いたいと言ったら叱責され、即時解雇されてしまった。」

「解雇予告手当を支払わせてもらいたい」


というものだった。
※労働者を解雇する時は30日前に予告しなければならない。予告なしに解雇する際は解雇予告手当(1ヶ月の給料相当額)を支払わなければならない。


「まあ、結構手広く商売をやっている会社のようだし、すぐ解決するやろ。」ってな気持ちで、アポもとらないまま、相談のあった当日、A社に乗り込んだ。
 

「○○労働基準監督署です。」

「解雇の件でお邪魔しました。」

「代表者にお会いしたいのですが。」

と告げると、受付の上品そうな女性が立派な部屋へ案内する。
 待つこと約10分。姿を現した社長は、40歳くらいの男性。
自分の椅子にドカッと座って足を組み、突然現れた訪問者に不快感を露にし、敵意むきだしの視線を投げかけて

 「何の用だ!」
と、一言。
名刺を差し出し、
「労働基準監督署の者です。」
と告げ、
「社長さんですね。」
と質問したが、男は名刺を一瞥しただけで、名乗りもしない。

「だから、何の用だって聞いてるんだよ!」

と大声をあげた。
『これは、一筋縄ではいかんかな。』と思いつつ、その男に、苦情の内容を伝え、法律について説明した上、解雇予告手当を支払うよう求めた。 
すると、相手は激昂し、怒鳴りはじめる。


社長「ふざけんなよ、なんであんな世間知らずの娘の肩を持つんだ!」


私「肩をもっているわけじゃありません。法律で決まっているから是正するように申し上げているのです。」


社長「この忙しいのに、休ませるのも法律か。」


私「そうです。年休は労働者の当然の権利です。彼女は最低限の権利を行使しただけですよ。」


社長「あんな奴に、給料以外の手当てを払わせるのも法律か。」


私「そうです。それも法律で義務付けられているんですよ。」


社長「法律、法律と馬鹿のひとつ憶えみたいに言いやがって!」「そのお節介な法律のせいで企業がどれだけ迷惑してるかわかってるのか。企業の自由な競争を邪魔し、企業の自然淘汰を阻害しているのがわからんか。」


私「法律そのものの是非についてコメントする立場にはありません。」
 「しかし、労働基準法は最低限のルールです。競争は多いに結構ですが、それもルールを守ってからのことじゃないですか?労働者の犠牲を伴う競争なんて、本当の公正な自由競争じゃありませんよ。」


社長「知ったような事をぬかすな。」
  「お前に企業経営の何が判るんだ。」
  「それに、さっきからの俺に対する口の聞き方はナンダ。ちゃんと学校教育を受けて来たのか!」
←あんたには、言われたないっちゅうねん。


等々言いたい放題・・・
こちらも興奮して声が大きくなる。

私「だから社長!さっきから言ってるように・・・」

すると社長、怒りが頂点に達したのか、突然立ちあがり、

大きな声を出すな、コノヤロー!」

と怒鳴って机を蹴り上げた。
 『今日はあかんかも・・・・』
そう判断し、

「今日は帰ります。」
>「あなたの返事は相手に伝えておきます。」
「法律に違反している事は説明したし、その是正をするよう求めたにもかかわらず、拒否したこともね。」

と告げた。そして部屋を出ようとしたのだが・・・

「忘れ物だ!」
と怒鳴った社長が、私の名刺を床に投げ捨てた。
重い足取りで役所に帰り、相談者に電話して処理経過を伝える。
 相談者やその父親からは

「有給休暇を請求したのがそんなに悪い事なんですか。」

「そんな無法がまかり通るのですか。」

「どうにかならないんですか」


と訴えたが、

「何分こちらの行政指導には強制力がないのです。」

>「どうしても会社が許せないのであれば、刑事告訴することは可能ですが、それも直接あなたの権利救済にはなりません。罰金は国に納められますからね」


「お気の毒ですが、強制的に支払わせるおつもりなら、民事裁判しかありません。」


「また社長とは接触を図っては見ますが、見込みは薄いでしょう。」

と説明するしかない。
その後も何度か理事長と接触を図るが、全く取り付くシマがなかった。
相談者も最後には

「色々してもらったけど、もう結構です。」

「あんな人にもう関わりたくないし、もし嫌がらせがきたら困るので告訴もしません。」

と言って、監督署への申告を取り下げた。
その日の夜、
同僚と飲みに出かけ、痛飲・・・
これも監督官の日常のひとつである。

後編に続く
posted by まこやん at 19:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 事件簿 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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