2005年05月10日

まこやん 一歩成長す

まだかけ出しで、ピュアーなハートの持ち主だった頃(はるか昔)のお話。
当事勤務していた監督署の管轄は、日雇いの労働者が多い地域で、その人達による賃金不払い等の相談も多かった。
ある日の朝、40歳くらいの男性が相談に来て、
 「○×建設で10日間働いていたが、給料が貰えない。」
「昨日から何も食べていない。交通費もないので遠くから監督署まで歩いてきた。」
と訴えた。
普通、監督署ではこのような事件を処理する場合、相手の会社に呼び出し状を出したりして、概ね1週間くらい先に相手と接触をとることが多いのだが、この男性は切迫した様子で、早期処理を希望する。 

男性「今すぐ金をとって来てくれ。」

私 「支払いなさいという指導は出来ても、役所がお金を取って来るわけにはいきませんよ。」

男性「では、すぐに支払わせてくれ。」

私 「いや、あのね、すぐにと言われても。」

男性「1週間も待ってられるわけないだろ。餓死するだろうが。」

私 「う〜ん」

こんなやりとりの後、とりあえずその場で電話してみることになった。応答に出た社長に対して申立内容を伝え、賃金不払いの事実を確認した上、速やかに賃金を支払うよう求めた。
しかし社長は

「働きぶりが悪かった。」

「会社の経営が思わしくない。」

「月末まで待ってくれ。」

等と言って支払いを渋る。

これは、普通の言い方ではすぐに払いそうにない。意を決して対決モードに・・・

「約束した日に、約束の賃金を払わないのは犯罪ですよ。」

「この人は、今日泊まる場所もないし、昨日から何も食べてないんですよ。」

「本当に餓死したり、凍死したら、どう責任をとるつもりですか

「社会問題になりますよ。」

と、まくしたてた。すると意外にもあっさり社長が態度を変え

「あ〜〜〜〜〜〜〜うるさい!」

「もういいよ。払ったらいいんだろ。」

「すぐ払うから、そいつをこちらに来させてくれ。」

と言ってきた。怒ってるみたいだが、そんなことはどうでもよろしい。とにかく払ってもらえばよいのである。
男に社長の返事を伝え、すぐに会社へ行くように指示したのだが、その男性、

 「会社に行く電車賃もない。」

 「絶対に返すから電車賃を貸してほしい。」

と懇願する。
嘘を言っているようには見えない・・
うまい具合に上司も見てない・・・
電車賃くらいはまあいいかと思って・・

「他の人に言うたらあきませんよ。」

と念を押し、その男性に200円を手渡した。
男性は

「ありがとう。本当にありがとう。」

と言って会社へ向かう。
それから約30分後、問題の会社から電話があった。

社長「今払った。」「本人に替わるぞ」

男性「ありとう。本当に助かりました。」

私 「よかったですね、じゃあこれで処理を終わりますから。」

こうして事件はあっさり落着。

「いつもこれだけ楽に片付けばいいんやけどなあ」

と一人上機嫌でその日
の仕事を終えた・・・
しかし、その数日後・・
署の3階で執務をしていたら、何やら下の方が騒がしい。
ほどなく署の庶務担当課長が血相変えて3階に上がってきて

「誰か、建設作業員にお金をあげなかったか?」

と怒鳴った。
恐る恐る先日の事件のことを話すと、業務課長が

 「ああ〜!それだ!」

 「なんてことをしてくれるんだ!」

と天を仰ぐ
急いで玄関に行って愕然とした。
なんと20人以上の建設作業員風の男がいて、騒いでいる。
おまけに一列に並んで、後ろのほうでは「俺のほうが先だ!」とか言い争っている。

「何事ですか?」
と聞くと、全員が口を揃えて

「ここで450円くれると聞いた。」

「俺にもくれ!」

「早くくれ」

と言う。
全てがわかった。
先日の男が「監督署に行ってお金を貸しもらった。」と仲間に吹聴したのであろう。それが伝言ゲームのように誇張されて

「監督署に行けば450円貰える。」

というふうに話が広がってしまったのである。
私と上司は、全員に

「全くのデマです。」

「お引き取りください。」

と怒鳴り、押し問答の末、なんとか全員を引き取らせた。
その後私が、直属の上司、次長、署長から順々に「バカタレ!!」と叱られたのは言うまでもない。
そして例の男からはその後一切の連絡もなし……
以下、心の叫び・・・

「あのおっさん、なにしよんねん。!」

「それにしても、450円とはなんやねん。中途半端に値があがっとるやんけ。」

こうしてまこやんは、ピュアーなハートをひとつ失い、かつ、一歩成長した。
posted by まこやん at 20:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 事件簿 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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